SoftBank AirのWi-Fi設定画面を開くと、末尾に「-2G」や「-5G」と付いた、2種類のネットワーク名(SSID)が表示されていることに気づくでしょう。これらはそれぞれ「2.4GHz(ギガヘルツ)」と「5GHz」という、異なる特性を持つWi-Fiの電波です。多くの方が「よく分からないから、とりあえず両方登録している」「速いと聞いた5GHzだけ使っている」といった使い方をしているのではないでしょうか。
しかし、2.4GHzと5GHzは、どちらが一方的に優れているというものではありません。それぞれに明確な得意・不得意があり、その特性を正しく理解し、利用する場所やデバイスに応じて賢く使い分けることこそが、あなたの家庭のWi-Fi環境を「最強」にするための鍵なのです。
この記事では、SoftBank Airが発信する2つのWi-Fi周波数帯「2.4GHz」と「5GHz」に完全に焦点を当てます。それぞれの電波の物理的な特性から、なぜ速度や安定性に違いが生まれるのかという技術的な背景、そしてあなたの家でパフォーマンスを最大限に引き出すための、具体的な使い分け戦略まで、あらゆる情報を網羅した専門技術ガイドです。
第1章:【一目瞭然】2.4GHzと5GHzの総合比較
まず、両者の違いを明確に理解するために、その特性を一覧表で比較してみましょう。
| 特性 | 2.4GHz帯 | 5GHz帯 |
|---|---|---|
| 通信速度 | 遅い | 速い |
| 電波の範囲 | 広い | 狭い |
| 障害物への強さ | 強い(壁や床を透過しやすい) | 弱い(壁や床で減衰しやすい) |
| 電波干渉 | 受けやすい(家電など) | 受けにくい |
| 主なWi-Fi規格 | Wi-Fi 4 (802.11n) | Wi-Fi 5 (802.11ac), Wi-Fi 6 (802.11ax) |
| 主な用途 | Web閲覧、SNS、スマート家電 | 動画視聴、オンラインゲーム、大容量ダウンロード |
第2章:【生活道路】2.4GHz帯の深掘り ― なぜ「遠くまで届き」、そして「干渉に弱い」のか
2.4GHz帯のメリットとデメリットは、全てその電波が持つ物理的な特性に起因します。
強み:障害物に強く、遠くまで届く「回折」の性質
電波は、周波数が低い(波長が長い)ほど、壁や床、家具といった障害物を回り込んで進む「回折」という性質が強くなります。2.4GHzは5GHzに比べて周波数が低いため、障害物に強く、より遠くの部屋まで電波が届きやすいという、明確なメリットを持っています。Airターミナルが1階のリビングにあり、2階の寝室でスマートフォンを使いたい、といった場合に強みを発揮します。
弱み:多くの機器が利用する「混雑した生活道路」
2.4GHz帯の最大の弱点は、その利用しやすさゆえに、非常に多くの無線機器がこの周波数帯を共有していることです。これは、誰もが使える便利な「生活道路」が、常に渋滞している様子に例えられます。あなたの家のWi-Fiが遅いのは、回線やルーターの性能ではなく、この「電波の渋滞」が原因である可能性が非常に高いのです。
【主な2.4GHz帯の渋滞(干渉)の原因】
・近隣の家のWi-Fi:マンションやアパートでは、数十のWi-Fi電波が飛び交っています。
・電子レンジ:食品を温める際に発するマイクロ波が、2.4GHz帯の電波と全く同じ帯域であり、最強の干渉源となります。
・Bluetooth機器:ワイヤレスイヤホン、マウス、キーボードなども2.4GHz帯を利用します。
・その他:コードレス電話、ベビーモニター、一部のスマートホーム機器(Zigbeeなど)。
最適化の鍵:「1ch」「6ch」「11ch」
この電波の渋滞を回避するためには、Wi-Fiが使う「チャンネル(通り道)」を最適化することが有効です。2.4GHz帯のチャンネルは互いに帯域が重複していますが、「1ch」「6ch」「11ch」の3つだけは互いに干渉しません。Wi-Fi分析アプリなどを使い、この3つのうち最も空いているチャンネルに手動で固定することで、2.4GHz帯のパフォーマンスを大きく改善できます。
第3章:【高速道路】5GHz帯の深掘り ― なぜ「速く」、そして「途切れる」ことがあるのか
次に、高速通信の主役である5GHz帯の特性を、そのメリットと注意点の両面から詳しく見ていきましょう。
強み:電波干渉が少なく、より広い帯域幅が使える
5GHz帯が「高速道路」に例えられるのには、明確な技術的理由があります。
1. 利用機器が少なく、電波干渉が起きにくい:5GHz帯は基本的にWi-Fi専用で、他の家電製品からの干渉をほとんど受けません。近隣のWi-Fiとの干渉も2.4GHz帯に比べて少なく、クリーンで安定した通信が可能です。
2. より広い帯域幅が使える:Wi-Fi 5 (ac)やWi-Fi 6 (ax)では、一度に通信できるデータの通り道の幅(帯域幅)が非常に広く確保されています。車線の多い高速道路のように、一度に大量のデータを送受信できるため、通信速度が飛躍的に向上します。
弱み:障害物に弱く、遠くまで届きにくい「直進性」
5GHz帯は周波数が高い(波長が短い)ため、電波の直進性が強く、障害物を回り込むのが苦手です。壁や床、家具、さらには人間の身体でさえも、電波を大きく減衰させる原因となります。そのため、Airターミナルと同じ部屋で使うのには最適ですが、階が違ったり、壁を何枚も隔てたりした部屋では、電波が弱くなるか、全く届かなくなることがあります。
【要注意】5GHz帯が瞬断する原因「DFS」とは?
「5GHz帯に接続していると、たまに1分間ほどWi-Fiが切れることがある」という経験はありませんか?その原因は、**「DFS(Dynamic Frequency Selection)」**という機能にある可能性が高いです。
5GHz帯のWi-Fiが使用する一部のチャンネル(W53/W56と呼ばれる帯域)は、実は「気象レーダー」や「航空レーダー」と共用されています。電波法により、Wi-Fiルーターは常に周辺のレーダー波を監視し、もしレーダー波を検知した場合は、即座にそのチャンネルの使用を停止し、別のチャンネルへ移動することが義務付けられています。このチャンネル移動の際に、約1分間の通信の切断(瞬断)が発生するのです。これがDFSの仕組みです。
もし、オンラインゲームの対戦中や、重要なビデオ会議中などにこの瞬断が発生すると、致命的な問題となります。絶対に通信を途切れさせたくない場合は、Airターミナルの設定画面で、5GHz帯のチャンネルをDFSの対象外である「W52」のチャンネル(36, 40, 44, 48chのいずれか)に手動で固定することで、このリスクを回避できます。
第4章:【実践】デバイス・状況別に見る、最適な使い分け戦略
それでは、これらの特性を踏まえ、あなたの家のどのデバイスを、どちらの周波数帯に接続するのが最も賢い選択なのか、具体的なシナリオと共に見ていきましょう。
【5GHz帯に接続すべきデバイス】
対象:スマートフォン、ノートPC、タブレット、スマートテレビ、ストリーミングデバイス(Fire TV Stickなど)、ゲーム機
条件:Airターミナルと同じ部屋、または壁一枚を隔てた程度の、電波が良好に届く場所で利用する機器。
理由:4K動画の視聴、オンラインゲーム、大容量ファイルのダウンロードなど、速度と安定性が求められるこれらの用途では、5GHz帯の恩恵を最大限に受けるべきです。
【2.4GHz帯に接続すべきデバイス】
対象:スマートスピーカー、スマート電球、お掃除ロボット、ネットワークプリンター、古いスマートフォンやゲーム機
条件:Airターミナルから離れた部屋に設置されている、または高速通信を必要としない機器。
理由:スマートホーム(IoT)機器の多くは、そもそも2.4GHz帯にしか対応していません。また、これらの機器は速度よりも「安定して常時接続されていること」が重要であり、障害物に強く、広範囲をカバーできる2.4GHz帯が最適です。高速通信が不要な機器を2.4GHz帯に集約することで、5GHz帯を本当に速度が必要な機器のために空けておく、という交通整理にも繋がります。
まとめ:2.4GHzと5GHzは「適材適所」で使い分ける
SoftBank Airが提供する2つのWi-Fi周波数帯、2.4GHzと5GHz。それは、どちらが優れていて、どちらが劣っているという単純なものではありません。それぞれが異なる役割を持った、あなたのための2つの道具です。
「遠くまで届けるが、渋滞しがちな2.4GHz」と、「近距離専用だが、超高速な5GHz」。この特性を完全に理解し、あなたの家のデバイスたちを、その役割に応じて適切な周波数帯へと振り分けてあげること。その「適材適所」の采配こそが、SoftBank Airのポテンシャルを100%引き出し、家庭内全体のWi-Fi環境を、プロフェッショナルなレベルへと引き上げる唯一の方法なのです。