SoftBank Airを使い始め、スマートフォンやPCが問題なくWi-Fiに繋がると、多くの方は「これで設定は完了」と考えるでしょう。しかし、ネットワークプリンターやNAS(ネットワーク接続ハードディスク)といった、より高度な機器を接続し始めると、「昨日まで使えていたプリンターが、今日は印刷できない」「NASに突然アクセスできなくなった」といった、不可解なトラブルに直面することがあります。

実は、これらの問題の多くは、SoftBank Airの「DHCP」という、IPアドレスを自動で割り当てる便利な機能が、かえって悪さをしているケースがほとんどなのです。

この記事では、一見すると難解なネットワーク設定の世界、「DHCP」と「IPアドレス固定」に完全に焦点を当てます。その基本的な仕組みから、なぜIPアドレスの固定が必要なのか、そしてAirターミナルの設定画面を使って、あなたの家のネットワーク機器を二度と見失わないようにするための、具体的な設定手順まで、あらゆる情報を網羅した専門技術ガイドです。この記事を読めば、あなたはホームネットワークの安定性を、プロフェッショナルなレベルへと引き上げることができます。

第1章:【ネットワークの基礎知識】IPアドレスとDHCPの仕組み

高度な設定に進む前に、全ての基本となる「IPアドレス」と「DHCP」が、一体何者なのかを理解しましょう。

IPアドレスとは? ― ネットワーク上の「住所」

IPアドレスは、あなたの家のWi-Fi(ホームネットワーク)に接続されている、スマートフォン、PC、プリンターといった全ての機器に割り振られる、固有の「住所」のようなものです。SoftBank Airの環境では、通常「172.16.255.〇〇」といった形式の番号が使われます。PCがプリンターに印刷データを送る際も、このIPアドレスという住所を目印にして、正しい相手にデータを届けているのです。

DHCPとは? ― 住所を自動で割り振る「管理人」

DHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)は、このIPアドレスを、ネットワークに新しく接続してきた機器に、自動で割り振ってくれる非常に便利な機能です。Airターミナルが、この「管理人」の役割を担っています。

あなたが自宅に帰り、スマートフォンをWi-Fiに接続すると、AirターミナルのDHCP機能が「はい、あなたは今日から『172.16.255.10』という住所ですよ」と、空いている住所を自動で貸し与えてくれます。これにより、私たちは面倒な設定を何もすることなく、インターネットに接続できるのです。

第2章:なぜIPアドレスを「固定」する必要があるのか?

自動で便利なはずのDHCPですが、一つだけ大きな問題点があります。それは、DHCPが割り当てるIPアドレスは、あくまで「一時的なもの」であり、機器の再起動などのタイミングで、**以前とは違うアドレスに変わってしまう可能性がある**ということです。これが、様々なトラブルの引き金となります。

トラブル事例:ネットワークプリンターが印刷できなくなる

昨日まで、あなたのPCは「プリンターの住所は『172.16.255.20』だ」と記憶していました。しかし、夜間にルーターやプリンターが再起動したことで、DHCPがプリンターに新しい住所『172.16.255.25』を割り当ててしまいました。PCは、古い住所である『172.16.255.20』に印刷データを送り続けますが、そこにはもうプリンターは”住んで”いません。結果、「プリンターが見つかりません」というエラーが発生するのです。

この問題を解決するのが、「IPアドレスの固定(静的IP割り当て)」です。プリンターやNASといった、常に同じ場所(住所)に居てほしい機器に対して、「あなたは未来永劫、この住所を使いなさい」と、専用の住所を割り当てる設定のことです。

第3章:【実践】AirターミナルでIPアドレスを固定する全手順

IPアドレスを固定するには、各機器側で設定する方法と、Airターミナル(ルーター)側で設定する方法がありますが、ネットワークを一元管理できる後者の**「DHCPスタティックIP設定(IPアドレス予約)」**が、最も確実で推奨される方法です。ここでは、その全手順を解説します。

ステップ1:固定したい機器の「MACアドレス」を調べる

MACアドレスは、IPアドレスという「可変の住所」とは異なり、機器の製造時に割り当てられた、世界に一つだけの「固有の識別番号(マイナンバーのようなもの)」です。Airターミナルは、このMACアドレスを元に、特定の機器を識別します。

プリンターの背面シールや、ネットワーク設定画面、あるいはAirターミナルの設定画面にある「DHCPクライアントリスト」などから、IPアドレスを固定したい機器のMACアドレス(例: `AA:BB:CC:11:22:33`)を調べてメモしておきます。

ステップ2:Airターミナルの設定画面にログインする

Webブラウザで「http://172.16.255.254」にアクセスし、Airターミナルの設定画面にログインします。

ステップ3:「DHCPスタティックIP設定」メニューを開く

「詳細設定」→「LAN側設定」といったメニューの中に、「DHCPスタティックIP設定」や「IPアドレス予約」といった項目がありますので、これを開きます。

ステップ4:MACアドレスと、固定したいIPアドレスを登録する

設定画面で、ステップ1で調べた機器の「MACアドレス」と、その機器に割り当てたい「固定IPアドレス」のペアを登録します。固定IPアドレスは、DHCPが自動で割り当てる範囲(例:172.16.255.10〜172.16.255.100)と重ならない、範囲外の番号(例:172.16.255.150など)を指定するのが一般的です。

【設定例】
・MACアドレス: `AA:BB:CC:11:22:33` (プリンターのMACアドレス)
・IPアドレス: `172.16.255.150` (プリンターに固定したいIPアドレス)

この設定を保存・適用し、Airターミナルと対象機器(プリンターなど)を再起動します。これにより、今後プリンターは、常に「172.16.255.150」という専用のIPアドレスを使い続けるようになり、PCが見失うといったトラブルは発生しなくなります。

第4章:IPアドレス固定時のトラブルシューティング

トラブル:IPアドレスが競合してしまった

原因:固定IPとして設定したアドレスが、DHCPが自動で割り当てる範囲内にあり、他の機器に偶然同じアドレスが割り当てられてしまった場合に「IPアドレスの競合」が発生し、通信が不安定になります。
解決策:固定IPアドレスは、DHCPの割り当て範囲外の番号(.150以降など、大きめの数字)に設定することで、競合を確実に避けることができます。

まとめ:DHCPを理解し、IPアドレス固定を制する者が、ホームネットワークを制する

DHCPは、私たちの日常的なインターネット利用を支える、非常に賢く便利な機能です。しかし、プリンターやNASといった「常にそこに居てほしい」機器にとっては、その便利さがかえってトラブルの原因となる諸刃の剣でもあります。

この記事で解説した「IPアドレスの固定」は、一見すると上級者向けの難しい設定に思えるかもしれません。しかし、その原理と手順さえ理解すれば、あなたのホームネットワークの安定性と信頼性を、飛躍的に向上させることができる、極めて強力な武器となります。ぜひ、このガイドを参考に、より盤石で快適なネットワーク環境の構築に挑戦してみてください。