自宅のインターネット回線を選ぶとき、多くの人がまず思い浮かべるのは、NTTの「フレッツ光」や、それを利用した「ドコモ光」「ソフトバンク光」といった「光回線」かもしれません。一方で、テレビCMなどで「工事不要、コンセントに挿すだけ」と謳われる「SoftBank Air」も、その手軽さから非常に魅力的に映ります。
「SoftBank Airって、結局NTTの回線を使っているの?」「光回線と比べて、速度や安定性はどれくらい違うの?」「工事が面倒だけど、やっぱり光回線の方がいいの?」――これらは、インターネット回線選びにおける、最も本質的で、そして多くの人が抱える疑問です。
この記事では、SoftBank AirとNTTの光回線という、日本の家庭向けインターネットを代表する二つのサービスに完全に焦点を当てます。その成り立ち、使っている技術、パフォーマンス、導入の手間、そして料金体系まで、あらゆる側面からその根本的な違いを徹底的に比較・解説します。この記事を読めば、あなたは両者の真の姿を理解し、ご自身のライフスタイルにとってどちらが本当に価値のある選択なのか、自信を持って判断できるようになるでしょう。
第1章:【根本的な違い】通信インフラ ― 無線のAir vs 有線のNTT光
両者の違いを理解する上で最も重要なのが、インターネットに接続するために利用している「通信インフラ(基盤)」が全く異なるという点です。
SoftBank Air:「ソフトバンクのモバイルネットワーク(無線)」を利用
SoftBank Airは、NTTの回線とは一切関係ありません。スマートフォンが電波を受信するのと同じように、街中に設置されたソフトバンク自身の基地局から発信される4Gや5Gの**電波(無線)**を、自宅に設置した「Airターミナル」で受信し、それをWi-Fiに変換してインターネットに接続します。技術的には「FWA(固定無線アクセス)」と呼ばれます。
NTT光回線:「NTT東西の固定通信網(有線の光ファイバー)」を利用
一方、「フレッツ光」や、それを利用した「ドコモ光」「ソフトバンク光」「ビッグローブ光」などのいわゆる「光コラボレーションモデル(光コラボ)」は、全てNTT東日本・西日本が敷設した「光ファイバーケーブル(有線)」を使ってインターネットに接続します。電柱などを通じて物理的な光ファイバーケーブルを自宅まで引き込み、ONU(光回線終端装置)という機器を介して接続します。技術的には「FTTH(Fiber To The Home)」と呼ばれます。
この「無線(電波)」と「有線(光ケーブル)」という根本的な違いが、以降で解説する速度、安定性、導入プロセスにおける全ての差異の源泉となります。
第2章:【速度対決】理論値と実測値 ― なぜ光回線は速いのか
理論上の最大速度
・SoftBank Air (5G):下り最大 2.7Gbps以上(Airターミナル6の場合)
・NTT光回線:下り最大 1Gbps または 10Gbps(プランによる)
理論値だけを見ると、SoftBank Airの5Gも非常に高速に見えます。しかし、重要なのは次の実測値です。
平均的な実測速度(下り)
・SoftBank Air (5Gエリア):100Mbps 〜 250Mbps程度
・NTT光回線 (1Gbpsプラン):300Mbps 〜 700Mbps程度
実際の利用環境では、**NTT光回線の方がSoftBank Airよりも2倍〜3倍以上速い**実測値が出るのが一般的です。
なぜ光回線は速いのか?
・光信号の圧倒的な伝送能力:光ファイバーは、電気信号ではなく光の点滅で情報を伝えます。光は電磁波の影響を受けず、減衰も非常に少ないため、長距離でも超高速なデータ伝送が可能です。
・占有回線の優位性:多くの場合、自宅から最寄りのNTT局舎までは、他のユーザーの影響を受けにくい、比較的占有に近い形で回線を利用できます。(マンションタイプは分岐する場合あり)
一方、SoftBank Airは無線であり、基地局の電波を周辺の多数のユーザーと共有するため、どうしても速度は光回線に及びません。
第3章:【安定性対決】Ping値・Jitter ― オンラインゲームやビデオ会議での差
速度以上に、両者の間で決定的な差が出るのが「通信の安定性」です。
Ping値(応答速度)の比較
・SoftBank Air:40ms 〜 70ms以上(変動が大きい)
・NTT光回線:5ms 〜 20ms程度(非常に安定)
応答速度では、**NTT光回線が圧倒的に優位**です。SoftBank AirのPing値は、オンラインゲーム(特にFPS)をプレイするには高すぎ、ラグの原因となります。
Jitter(遅延の揺らぎ)とパケットロス
SoftBank Airは無線であるため、電波干渉や天候の影響でPing値が不安定に変動(Jitterが大きい)したり、データの一部が欠損(パケットロス)したりするリスクが、有線の光回線よりも格段に高くなります。これは、ビデオ会議の映像や音声が途切れる原因となります。
【安定性対決の勝者】**NTT光回線**。オンラインゲーム、ビデオ会議、デイトレードなど、通信の安定性とリアルタイム性が最重要視される用途においては、光回線以外の選択肢は考えにくいでしょう。
第4章:【導入プロセス対決】手軽さのAir vs 手間のかかる光
ここがSoftBank Airの最大の強みを発揮するポイントです。
・SoftBank Air:申し込み後、数日で端末が到着。コンセントに挿すだけで即日利用開始。工事不要。
・NTT光回線:申し込み後、エリアや建物の状況確認、工事日の調整を経て、専門業者による**開通工事(通常1〜2時間、立ち会い必要)が必須。利用開始まで数週間〜2ヶ月程度かかる**場合も。賃貸の場合は大家や管理会社の許可が必要なことも。
【導入プロセス対決の勝者】**SoftBank Air**。とにかく早く、手間なくインターネットを始めたい、工事ができない・したくない、というニーズに対しては、SoftBank Airの右に出るものはありません。
第5章:【エリア対決】どこで使えるのか?
・SoftBank Air:ソフトバンクのモバイルネットワーク(4G/5G)エリア。4Gを含めれば人口カバー率99%以上で、**日本全国ほとんどの場所で利用可能。**
・NTT光回線:NTT東西の光ファイバー網が整備されているエリア。こちらもカバー率は非常に高いですが、**山間部や離島の一部など、未提供エリアも存在する。**また、建物によっては設備が導入されておらず、利用できない場合がある。
【エリア対決の勝者】**ほぼ引き分け**。カバー率では両者とも非常に高いレベルですが、モバイル網ベースのSoftBank Airの方がやや利用可能な場所が多い傾向にあります。ただし、光回線未提供エリアではSoftBank Airが唯一の高速回線となる可能性があります。
第6章:【コスト対決】料金体系と割引構造の違い
・SoftBank Air:月額5,368円(割引前)。端末代は実質0円。「おうち割 光セット」でソフトバンク・ワイモバイルスマホ代が大幅割引。Web代理店キャッシュバックで初期コストを抑えられる。
・NTT光回線:月額料金はプラン(戸建て/マンション、1G/10G)や事業者(フレッツ光/光コラボ)により大きく異なる(戸建て5,000〜6,000円、マンション4,000〜5,000円程度が目安)。初期費用として工事費(数万円)がかかる(キャンペーンで実質無料の場合あり)。各光コラボ事業者が、それぞれの携帯キャリア(ドコモ光、ソフトバンク光、auひかりなど)とのセット割引を提供。
【コスト対決の勝者】**引き分け(状況による)**。単純な月額料金では光回線のマンションタイプが安い場合もありますが、初期工事費やスマホセット割(特に家族が多い場合)まで含めて総合的に比較する必要があります。SoftBank Airは代理店キャッシュバックを考慮すると、最初の2〜3年の実質コストは非常に低くなる可能性があります。
【最終結論】SoftBank Air vs NTT光回線 ― あなたに最適なのは?
🥇 SoftBank Airを選ぶべき人
✅ **工事をしたくない、できない(賃貸など)**
✅ **すぐにインターネットを始めたい**
✅ **引越しが多い**
✅ スマホが**ソフトバンク** または **ワイモバイル** である
✅ 主な用途がWeb閲覧、動画視聴、SNSで、**オンラインゲームのヘビーユーザーではない**
✅ 光回線の提供エリア外である
🥇 NTT光回線を選ぶべき人
✅ **通信速度と安定性を最優先**したい
✅ **オンラインゲーム(特にFPS)を快適にプレイしたい**
✅ **ビデオ会議を高画質で安定して行いたい**
✅ 大容量データのアップロード/ダウンロードを頻繁に行う
✅ 開通工事の手間や時間を許容できる
✅ 利用しているスマホキャリア(ドコモ、auなど)の光回線セット割を活用したい
SoftBank AirとNTT光回線は、どちらが優れているかではなく、その目的と特性が全く異なるサービスです。SoftBank Airは「手軽さ」という価値を最大限に提供し、NTT光回線は「最高のパフォーマンス」を提供します。あなたのインターネットに対する優先順位を明確にし、この記事の比較を参考に、後悔のない選択をしてください。