SoftBank Airの通信速度や対応エリアについて語られるとき、その性能の根幹には「周波数帯(バンド)」という、目には見えない電波の道筋が存在します。なぜ5Gは速いのか、なぜ4Gでも地方で繋がるのか、その全ての答えはこの周波数帯の特性に隠されています。
多くのユーザーにとって、周波数帯は難解な専門用語に聞こえるかもしれません。しかし、その基本的な仕組みを理解することは、あなたがSoftBank Airというサービスの本質を深く知り、ご自身の通信環境をより正確に把握するための、強力な武器となります。
この記事は、SoftBank Airが利用する全ての周波数帯(バンド)を主題とした、百科事典的な技術解説書です。それぞれのバンドが持つ物理的な特性、ネットワークにおける役割、そしてそれらがどのように連携してSoftBank Airの速度とエリアを形作っているのかを、どこよりも詳しく、そして分かりやすく解き明かしていきます。
第1章:【基礎知識】「周波数帯(バンド)」とは何か?
周波数帯を理解するための最も簡単な例えは「高速道路」です。国中には様々な種類の道路(周波数帯)が張り巡らされています。それぞれの道路には、異なる特性があります。
周波数の「高い・低い」と「速度・範囲」の関係
・低い周波数帯(例:900MHz帯 / Band 8)
特性:電波が遠くまで届きやすく、建物などの障害物も回り込んで進む性質が強い。
高速道路の例え:道幅は狭く(=速度は遅い)、速度制限もあるが、日本全国の隅々まで整備されている一般道や国道。どこにでも行けるが、速くは走れない。
・高い周波数帯(例:3.7GHz帯 / n77)
特性:直進性が強く、障害物に弱いため、遠くまで届きにくい。しかし、非常に広い道幅(帯域幅)を確保できるため、超高速なデータ通信が可能。
高速道路の例え:道幅が広く(=超高速)、速度制限もないが、都市部にしか開通していない新東名のようなスーパーハイウェイ。走れる場所は限られるが、非常に速い。
SoftBank Airは、これらの特性が異なる複数の道路(周波数帯)を、場所や状況に応じて巧みに使い分けることで、全国的なエリアカバーと高速通信を両立させています。
第2章:SoftBank Airを支える主要な周波数帯(バンド)
ここでは、SoftBank Airが利用する主要な4G(LTE)および5Gのバンドと、それぞれのネットワーク内での役割を解説します。
【4G LTE】Band 41 (2.5GHz帯) ― SoftBank Airの背骨
役割:データ通信の主力
これは、SoftBank Airの基盤であり、歴史的にも最も中心的な役割を担ってきたバンドです。技術的には「AXGP」および「TDD-LTE」と呼ばれる方式で、データ通信に特化しており、多くのユーザーが同時に接続しても安定した通信を維持しやすいという特徴があります。都市部を中心に高密度に整備されており、SoftBank Airの4G通信における速度と安定性の要です。
【4G LTE】Band 8 (900MHz帯) ― エリアを支える「プラチナバンド」
役割:エリアカバーの生命線
「プラチナバンド」という通称で知られる、非常に価値の高い周波数帯です。周波数が低いため電波が遠くまで届き、建物の中にも浸透しやすいため、地方や山間部、ビルの奥まった場所など、他の電波が届きにくいエリアの通信を確保する生命線となっています。速度はそれほど速くありませんが、「繋がる」という最低限のサービス品質を保証する上で、不可欠な存在です。
【4G LTE】Band 1 (2.1GHz帯) / Band 3 (1.7GHz帯) ― 都市部の容量確保
役割:混雑緩和
これらは、ソフトバンクのスマートフォンで広く利用されているメインのバンドです。特に人口が密集する都市部において、Band 41だけでは捌ききれない通信量を補い、ネットワーク全体の混雑を緩和する役割を担っています。
【5G】Band n77 (3.7GHz帯) ― 高速通信の主役
役割:超高速化
これこそが、現在のSoftBank Airの高速通信を実現する主役の5Gバンドです。「Sub6(サブシックス)」とも呼ばれ、4Gに比べて非常に広い帯域幅を持つため、理論値で数Gbpsという、光回線に匹敵する速度を可能にします。ただし、周波数が高いため、障害物に弱く、まだ提供エリアが都市部中心に限られているのが現状です。Airターミナルのランプが「青色」に点灯している時、主にこのn77の電波を掴んでいます。
第3章:【速度の秘密】キャリアアグリゲーションの仕組み
SoftBank Airが4G環境でも比較的高速な通信を実現できる秘密が、「キャリアアグリゲーション(CA)」という技術です。これは、ここまで解説してきた複数の異なる周波数帯の電波(道路)を、同時に束ねて(=車線を増やして)通信することで、通信速度を大幅に向上させる技術です。
例えば、ある場所でAirターミナルがBand 41とBand 8の両方の電波を掴める場合、キャリアアグリゲーションに対応した端末(Airターミナル3以降など)は、これら2つのバンドを同時に利用してデータを送受信します。これにより、単一のバンドで通信するよりも、理論上は速度が2倍近くになります。現代の高速な4G通信は、このキャリアアグリゲーション技術なくしては成り立ちません。
第4章:【実践】あなたのAirターミナルが接続しているバンドを知る方法
「では、自分のAirターミナルが今、どのバンドに接続しているのか?」これは多くのユーザーが抱く疑問ですが、残念ながらAirターミナルの設定画面では、「4G」または「5G」という大まかな情報しか表示されず、詳細なバンド番号までを確認する公式な方法はありません。
しかし、非常に確度の高い「推測」を行う方法があります。
スマートフォンの専用アプリを活用する
ソフトバンク回線(ワイモバイルやLINEMOも可)を利用しているAndroidスマートフォンをお持ちの場合、「Netmonitor」といった、基地局の接続情報を詳細に表示できる専門アプリをインストールします。Wi-Fiをオフにし、Airターミナルと全く同じ場所(同じ窓際など)にスマートフォンを置き、このアプリを起動します。
アプリの画面には、現在スマートフォンが接続している基地局の「Band」番号が明確に表示されます。スマートフォンとAirターミナルは、同じ場所にあれば、同じ基地局の同じバンドに接続しようとします。したがって、**ここで表示されたバンド番号が、あなたのAirターミナルが現在利用しているバンドである可能性が極めて高い**と推測できるのです。これにより、「うちはプラチナバンドでかろうじて繋がっているのか」「複数のバンドを束ねたCAで繋がっているな」といった、ご自身の通信環境の解像度を大きく上げることができます。
まとめ:周波数帯の理解が、インターネットをより深く楽しむ鍵
周波数帯(バンド)の世界は、一見すると非常に専門的で、とっつきにくいものかもしれません。しかし、その基本的な特性と役割分担を理解することで、SoftBank Airの通信速度やエリアに関するニュースの裏側にある技術的な背景が見えるようになり、ご自身の通信環境に対する理解も格段に深まります。
なぜあなたの家では速いのか、あるいは遅いのか。その答えの多くは、この記事で解説した「周波数帯」に隠されています。この知識が、あなたのデジタルライフをより深く、そして豊かなものにする一助となれば幸いです。