「5Gエリアの端に住んでいるせいか、5Gと4Gの接続が頻繁に切り替わって不安定だ。いっそ安定した4Gに固定したい」「逆に、弱いけれど5Gの電波が来ているはず。なんとか5Gに固定して使えないだろうか」――SoftBank Airを利用していると、このように接続する電波を自分の手でコントロールしたい、と考える場面があるかもしれません。

しかし、結論から先に申し上げると、残念ながら現在のSoftBank AirのAirターミナルには、スマートフォンのように**ユーザーが設定画面から手動で「5Gのみ」「4Gのみ」といった形で、接続する電波を固定(切り替え)する公式な機能は搭載されていません。**

この記事では、まず「なぜ手動での切替機能がないのか」という技術的な背景を深掘りし、その上で、公式機能がない中で、私たちが取りうる最善の策、すなわち**設置場所や向きの調整によって、Airターミナルが接続する電波を”間接的に”コントロールし、通信を安定させる**ための、上級者向けのテクニックを徹底的に解説していきます。

第1章:【神話の解体】なぜSoftBank Airは5G/4Gを手動で切り替えられないのか

手動での切替機能がないのは、単なる機能の省略ではなく、現在の5G通信が持つ技術的な特性に深く根差した、意図的な設計です。

現在の5Gは「ノンスタンドアローン(NSA)方式」が主流

現在、日本の携帯キャリアが提供する5Gサービスの多くは、「ノンスタンドアローン(NSA)方式」と呼ばれる方法で運用されています。これは、データ通信のメインの通り道として高速な「5G」の電波を使いつつ、通信の制御や基地局との基本的なやり取り(コントロール信号)には、安定して広範囲をカバーする「4G LTE」の電波を併用する、というハイブリッドな技術です。

つまり、多くの5G通信は、**4Gの電波と5Gの電波を同時に、協調させて利用する**ことで初めて成り立っているのです。もしユーザーが「5Gのみ」に接続を強制する設定を選んでしまうと、制御を担う4Gの電波を掴めなくなり、結果として全く通信ができなくなる、という事態が発生しかねません。このような複雑な仕組みのため、Airターミナルは常に最適な電波の組み合わせを自動で選択するように設計されており、ユーザーによる手動介入の余地をなくしているのです。

第2章:【現状把握】あなたのAirターミナルは今、何に繋がっているのか?

電波をコントロールする前に、まずは現状、あなたのAirターミナルが4Gと5Gのどちらで通信しているのかを正確に診断する方法をマスターしましょう。

ランプでの簡易診断

最も簡単な方法は、Airターミナル本体正面の「5G/4G」ランプの色を確認することです。
青色に点灯:5Gの電波で接続しています。
緑色に点灯:4Gの電波で接続しています。

設定画面での詳細診断

より詳細な情報は、設定画面(http://172.16.255.254)にログインすることで確認できます。「端末情報」や「モバイルネットワーク情報」といったメニューを開くと、「現在の通信モード」として「5G」か「4G (LTE/AXGP)」かが表示されています。さらに、接続している周波数帯(バンド)や、後述する電波強度(RSRPなど)といった、専門的なデータもここで確認できます。

第3章:【実践】設置場所で電波をコントロールする超上級チューニング術

手動での設定はできませんが、私たちはAirターミナルが受信する電波の「環境」を変えることで、結果的に接続先を間接的にコントロールすることが可能です。これは、高度な知識を要する上級者向けのテクニックです。

目的1:不安定な5Gを避け、「安定した4G」に意図的に接続させる

状況:5Gエリアの境界線上に住んでおり、Airターミナルが弱い5Gを掴もうとしては失敗し、4Gに落ちる、という動作を繰り返して通信がブツブツ切れる。

戦略:あえて、5Gの電波がより届きにくい場所にAirターミナルを「格下げ」設置します。5Gの電波は、4Gに比べて直進性が強く、障害物に弱い性質があります。そこで、窓際から少し部屋の奥まった場所や、壁際に移動させることで、微弱な5G電波を完全に遮断し、Airターミナルが5Gへの接続を諦め、より安定した4Gの電波を掴み続けるように仕向けるのです。移動させた後、ランプが緑色に安定して点灯することを確認します。

目的2:弱い5Gを粘り強く掴ませ、「高速な5G」での接続を維持する

状況:普段は4Gで接続しているが、スマートフォンの電波状況などから、自宅に微弱な5Gの電波が届いていることは分かっている。なんとかしてAirターミナルに5Gを掴ませたい。

戦略:徹底的な「サイトサーベイ(設置場所探査)」を行います。この際、頼りになるのが設定画面の詳細な電波数値です。

1. 設定画面を開く:PCやタブレットで設定画面の「モバイルネットワーク情報」ページを開いたままにします。
2. RSRPとSINRの数値を監視する:「5G」の項目にある「RSRP(受信強度)」と「SINR(信号品質)」の数値に注目します。RSRPは-90dBmに近いほど強く、SINRは10以上が望ましいです。
3. センチメートル単位での調整:家の中で最も電波が強そうな窓際にAirターミナルを置き、そこから本体の向きを1cmずつ、あるいは数度ずつ回転させながら、RSRPとSINRの数値が最も良くなる「奇跡の1点」を探し出します。高層階では、向かいのビルからの反射波をうまく拾える角度が存在することもあります。
4. 接続の確認:最も良い数値が出たポイントで固定し、ランプが青色に変わり、5Gでの接続が安定するかどうかを数時間〜1日かけてテストします。

第4章:なぜ「4G固定」が望ましい場合があるのか

最新の高速な5Gではなく、あえて旧来の4Gでの接続を目指すことに、どのようなメリットがあるのでしょうか。それは「安定性」の一言に尽きます。

特に、株の取引や、絶対に失敗できない重要なビデオ会議、あるいは一瞬のラグも許されないオンラインゲームなど、通信速度の絶対値よりも「絶対に途切れないこと」「遅延が安定していること」が優先される用途では、中途半端に速いが不安定な5Gよりも、速度はそこそこでも盤石な安定性を持つ4Gの方が、結果的に優れたパフォーマンスを発揮することがあるのです。

あなたのインターネットの利用目的が「安定性」を最優先するのであれば、不安定な5Gにしがみつくよりも、快適な4G環境を構築する方が、賢明な判断となる場合があります。

まとめ:手動切替はできない。しかし、環境のコントロールは可能

SoftBank Airで5Gと4Gを手動で切り替えることはできません。しかし、それはあなたが無力であることを意味するわけではありません。この記事で解説したように、電波の特性を深く理解し、設定画面の数値を羅針盤とすることで、私たちはAirターミナルが接続する電波を、物理的に、そして間接的にコントロールすることが可能です。

それは、ただ闇雲に再起動を繰り返すのとは全く異なる、知識と分析に基づく高度なチューニングです。ぜひ、このガイドを参考に、ご自身の住環境と利用目的にとって、最も最適な電波状態をその手で作り出してください。