スマートフォンで撮った写真や動画、パソコンで作成した大切なファイル、家族みんなで楽しみたい音楽や映画データ…。これらのデジタルデータが、個々のデバイスに散らばってしまい、管理に困っていませんか? そんな悩みを解決してくれるのが、「NAS(ナス / Network Attached Storage)」です。NASを導入すれば、家中のデータを一箇所にまとめて保存し、どのデバイスからでも簡単にアクセスできる、あなただけのプライベートクラウドを構築できます。
「でも、うちのインターネットは工事不要のSoftBank Airだけど、NASなんて使えるの?」「設定が難しそう…」「外出先からもアクセスできるって聞いたけど、本当?」――そんな疑問や不安を抱えているSoftBank Airユーザーのために、この記事は存在します。
この記事では、SoftBank Airという、モバイル回線をベースとした少し特殊なネットワーク環境下で、NASを導入・設定し、そのメリットを最大限に享受するための、完全な実践ガイドです。NASの選び方から、接続と必須設定、家庭内でのアクセス方法、そして最大の難関である「外部(リモート)アクセス」の課題とその解決策まで、あなたがNASを使いこなすために必要な全ての情報を、ステップ・バイ・ステップで解説していきます。
第1章:NASとは何か? SoftBank Air環境で導入するメリット
NAS=ネットワークに繋がる「自分だけのハードディスク」
NASは、簡単に言えば「LANケーブルでルーター(Airターミナル)に接続するタイプの外付けハードディスク」です。しかし、単なるストレージではありません。NAS自体が小さなコンピューターのように動作し、様々な便利な機能を提供してくれます。
【NASでできることの例】
・ファイル共有:家中のPCやスマホから、NASに保存したファイル(写真、動画、音楽、書類など)を自由に読み書きできる。
・自動バックアップ:PCやMacのデータを、定期的にNASへ自動でバックアップできる(Time Machine対応など)。
・メディアサーバー:NASに保存した動画や音楽を、テレビやスマホ、タブレットでストリーミング再生できる。
・外部アクセス(条件付き):設定次第で、外出先から自宅のNASにアクセスすることも可能。
SoftBank Air環境でNASを導入するメリット
工事不要で手軽なSoftBank AirとNASの組み合わせは、特に以下のような点でメリットがあります。
・手軽に大容量ストレージを追加:光回線が引けない環境でも、NASを追加するだけで、テラバイト級の大容量ストレージを家庭内ネットワークに追加できます。
・デバイスの容量不足を解消:スマートフォンの写真や動画をNASに退避させることで、スマホ本体のストレージ空き容量を確保できます。
第2章:SoftBank AirユーザーのためのNAS選びのポイント
NASには様々な種類がありますが、SoftBank Air環境で使うことを考慮すると、以下の点を重視して選ぶのがおすすめです。
・HDDベイ数:初めてなら1ベイまたは2ベイモデルが手頃。2ベイモデルなら、RAID1(ミラーリング)という設定で、片方のHDDが故障してもデータ消失を防げるため、より安心です。
・CPUとメモリ: SoftBank Airの速度(特に上り)には限界があるため、超高性能なCPUや大容量メモリを搭載した高価なモデルは、宝の持ち腐れになる可能性があります。ファイル共有やバックアップが主目的なら、エントリー〜ミドルクラスのモデルで十分です。
・メーカー:初心者でも設定・管理がしやすいソフトウェアを提供しているメーカーを選ぶのが重要です。「Synology(シノロジー)」「QNAP(キューナップ)」「Buffalo(バッファロー)」などが、日本語の情報も豊富で人気があります。
・ギガビットLAN対応:必須条件です。NASとAirターミナル間の通信速度を最大限に活かすため、必ず有線LANポートが1000BASE-T(ギガビット)に対応しているモデルを選びましょう。
第3章:【必須設定】NASの接続とIPアドレス固定
ステップ1:有線LANでの接続(Wi-Fi接続は非推奨)
NASの性能を最大限に引き出すため、接続は必ず**有線LAN**で行います。NAS本体のLANポートと、Airターミナルの背面にあるLANポート(空いていなければ、別途スイッチングハブを使用)を、カテゴリ6以上のLANケーブルで接続します。NASをWi-Fiで接続する機能を持つモデルもありますが、速度と安定性の観点から全くお勧めできません。
ステップ2:NASの初期設定(メーカー手順に従う)
NASの電源を入れ、PCのWebブラウザなどから、NASメーカーの指示に従って初期設定(管理者パスワードの設定、ストレージ領域の作成など)を行います。この時点では、IPアドレスはAirターミナルから自動(DHCP)で割り当てられています。
ステップ3:【超重要】NASのプライベートIPアドレスを固定する
これが、SoftBank Air環境下でNASを安定して使うための**最重要設定**です。NASのIPアドレスが変動してしまうと、PCやスマホからアクセスできなくなるトラブルが頻発します。必ず、Airターミナルの設定画面で、NASに常に同じIPアドレスが割り当てられるように「予約(固定)」します。
・なぜ固定が必要か?:PCやスマホは、NASのIPアドレス(家庭内の住所)を記憶してアクセスします。NASの住所が変わってしまうと、PCたちは迷子になってしまうのです。
・どうやって固定するか?:Airターミナルの設定画面(http://172.16.255.254)にログインし、「LAN側設定」→「DHCPスタティックIP設定」メニューで、NASのMACアドレス(NASの設定画面や本体シールで確認)と、割り当てたい固定IPアドレス(例:172.16.255.150)を登録します。
IPアドレス固定の具体的な手順については、当ブログの別記事『SoftBank AirのDHCP設定ガイド|IPアドレスを固定してネットワークを安定させる方法』(←ここに内部リンク)で詳しく解説していますので、必ず参照してください。
第4章:家庭内ネットワークからNASへアクセスする方法
IPアドレスを固定したら、いよいよ家中のデバイスからNASにアクセスしてみましょう。
・Windows PCから:エクスプローラーのアドレスバーに「`\\固定したIPアドレス`」(例:`\\172.16.255.150`)と入力するか、「ネットワーク」の一覧からNASのアイコンを探して開きます。必要に応じて、NASの初期設定で作成したユーザー名とパスワードを入力します。
・Macから:Finderのメニューバー「移動」→「サーバへ接続」を選択し、「`smb://固定したIPアドレス`」(例:`smb://172.16.255.150`)と入力して接続します。
・スマートフォン/タブレットから:NASメーカーが提供している専用のファイル管理アプリ(例:Synology Photos, Qfile)や、高機能なファイル管理アプリ(例:Solid Explorer, FileExplorer)を使って、IPアドレスを指定して接続します。
第5章:【最大の難関】SoftBank Airで外部(リモート)アクセスを実現する方法
NASの大きな魅力の一つが、外出先から自宅のNASにアクセスできる「リモートアクセス」機能です。しかし、SoftBank Air環境では、これが一筋縄ではいきません。
なぜ難しい? CGNATと動的グローバルIPの壁
SoftBank Airは、インターネット接続に使う「グローバルIPアドレス」が固定されておらず(動的IP)、さらにそのアドレスが他のユーザーと共有されている(CGNAT)可能性が高いです。これにより、外部から特定のIPアドレスを指定して自宅のNASに直接アクセスするための「ポート開放」設定が、原理的に機能しません。
現実的な解決策:NASメーカー提供の「リレーサービス」
この問題を回避するための、最も現実的で簡単な方法が、Synologyの「QuickConnect」やQNAPの「myQNAPcloud」といった、NASメーカー自身が提供する「リレー(中継)サービス」を利用することです。
仕組み:NASと外部のデバイスが、メーカーのサーバーを経由して接続を確立します。これにより、自宅のグローバルIPアドレスが変動したり、CGNAT環境下にあったりしても、専用のID(例: `yourname.quickconnect.to` )を使って、あたかも直接アクセスしているかのようにNASに接続できます。
設定方法:NASの初期設定の中や、コントロールパネル内に、これらのリレーサービスを設定するメニューがあります。画面の指示に従ってアカウントを作成し、専用のIDを取得・有効化するだけで、複雑なルーター設定は不要です。
注意点:通信がメーカーのサーバーを経由するため、直接接続に比べて速度が低下する場合があります。また、サービスの利用にはメーカーへのユーザー登録が必要です。
まとめ:IP固定とリレーサービスが、SoftBank Air × NAS活用の鍵
SoftBank Air環境下でNASを安定して活用するためには、**①有線LANで接続し、②プライベートIPアドレスを必ず固定(予約)する**こと。そして、外部からのリモートアクセスを実現するためには、**③NASメーカー提供のリレーサービスを利用する**こと。この3つのポイントを押さえることが、成功への鍵となります。
ポート開放ができないなどの一部制約はありますが、これらの対策を講じることで、SoftBank AirユーザーでもNASがもたらすデータ集約・共有・バックアップといった恩恵を十分に享受することは可能です。ぜひ、あなただけのプライベートクラウド構築に挑戦してみてください。