SoftBank Airの最新端末を手にし、自宅が5Gエリアであることを確認。Airターミナルのランプが待望の「青色」に点灯し、高速通信への期待に胸を膨らませた――しかし、実際に使ってみると「なぜか速度が不安定」「頻繁に4G(緑ランプ)に切り替わってしまう」「青ランプなのに、4Gの時と速度が変わらない…」そんな、期待外れの体験に悩まされていませんか?

「5Gに繋がっているはずなのに、なぜ快適ではないのか?」この問題は、単なる再起動や設置場所の変更といった基本的な対策だけでは解決しない、より複雑で技術的な原因が潜んでいる可能性が高いです。

この記事は、「5Gには繋がるものの、その品質に不満がある」という、より上級者向けの悩みに特化した、専門的なパフォーマンスチューニングガイドです。なぜ不安定になるのかという技術的な背景から、あなたの家の5G電波の「質」を診断する方法、そして接続を安定させるための具体的な戦略まで、あらゆる情報を網羅的に、そして深く解説していきます。

第1章:【原因分析】「5Gなのに不安定」を引き起こす3つの技術的背景

まず、なぜ「5G=常に超高速・超安定」というイメージ通りにならないのか、その背景にある技術的な理由を理解しましょう。

原因1:5G NSA方式の複雑な仕組み

現在のSoftBank Airが利用する5Gは、「ノンスタンドアローン(NSA)方式」が主流です。これは、データ通信の主役として高速な「5G」の電波を使いつつ、基地局との基本的なやり取り(制御信号)には、安定した「4G」の電波を補助的に利用するハイブリッド技術です。つまり、5Gで安定して通信するためには、**5Gと4G、両方の電波を良好に受信している必要がある**のです。もし、5G電波は強いけれど、制御を担う4G電波が弱い、といった状況では、接続全体が不安定になることがあります。

原因2:電波の「強度(RSRP)」と「品質(SINR)」の違い

電波の受信状況を測る指標には、主に2つの重要なパラメータがあります。
・RSRP (受信強度):電波の「強さ」や「大きさ」を示す数値です。アンテナピクトの数のように、直感的に分かりやすい指標です。
・SINR (信号対干渉雑音比):受信した電波の「質」や「純度」を示す数値です。目的の信号が、周囲のノイズ(他の電波など)に対してどれだけクリアであるかを示します。

5Gに接続するためには、まず一定以上の「強度(RSRP)」が必要ですが、たとえ強度が十分でも、ノイズが多く「品質(SINR)」が低い電波では、データ通信は安定しません。「ランプは青いが速度が出ない」という場合、このSINRが低い、つまり「質の悪い5G電波」を掴んでいる可能性が非常に高いのです。

原因3:「なんちゃって5G(4G周波数転用)」の可能性

一部のエリアでは、既存の4G用の周波数帯を5Gに転用して「5Gエリア」として運用している場合があります。この場合、Airターミナルは5Gとして接続(青ランプ点灯)しますが、利用している道路が実質的に4Gと同じであるため、ユーザーが期待するような「5Gならではの爆発的な速度」は体験できません。接続は比較的安定しますが、速度が4Gと大差ない、という場合はこの可能性も考えられます。

第2章:【診断編】あなたの家の5G電波の「品質」を可視化する

不安定さの原因を探るため、Airターミナルの設定画面(管理画面)を使って、あなたの家の5G電波の「健康診断」を行いましょう。

ステップ1:設定画面にログインし、電波情報を表示する

PCやタブレットでAirターミナルの設定画面(http://172.16.255.254)にログインし、「端末情報」や「モバイルネットワーク情報」といったページを開きます。

ステップ2:RSRPとSINRの数値を読み解く

表示された情報の中から、「5G」の項目にある「RSRP」と「SINR」の数値に注目します。

【RSRP (受信強度) の目安】
・-80dBm 〜 -95dBm:非常に良好
・-96dBm 〜 -105dBm:良好
・-106dBm 〜 -115dBm:弱い
・-116dBm以下:非常に弱い(接続が切れやすい)

【SINR (信号品質) の目安】
・20以上:非常に高品質
・10 〜 19:良好
・1 〜 9:品質が悪い(ノイズが多い)
・0以下:極めて品質が悪い(通信が困難)

もし、RSRPが-100dBmと良好なのに、SINRが5しかない、といった場合は、「電波は強く届いているが、ノイズまみれで品質が悪い」という診断になり、これが不安定さの直接的な原因であると特定できます。

第3章:【解決編】5G接続を安定させるための具体的なアクション

対策1:「SINR」を最大化する設置場所を探す

5G接続を安定させるチューニングの目標は、単にRSRP(強度)を良くするだけでなく、「SINR(品質)」を最大化することです。設定画面を開いたまま、Airターミナルの向きを1cm、数度ずつ変えながら、SINRの数値が最も高くなるポイントを探し出します。窓からの距離や、壁からの反射なども影響するため、これまで試したことのない意外な場所や角度が、実はSINRのスイートスポットである可能性があります。

対策2:【戦略的撤退】あえて安定した4Gに固定させる

様々な場所を試しても、どうしてもSINRの低い不安定な5Gしか掴めない場合、無理に5Gに接続し続けることは、かえってインターネット体験を損なう原因となります。頻繁に4Gに落ちたり、速度が乱高下したりするくらいなら、安定した4Gに常時接続している方が、ビデオ会議やオンラインゲームははるかに快適です。

その場合は、以前の記事No.48でも解説した「間接的な電波コントロール術」を試します。あえて窓際から少し離れた、5Gの電波が届きにくい場所にAirターミナルを設置し、5Gへの接続を諦めさせ、安定した4G(緑ランプ)を掴み続けるように仕向けるのです。これは「敗北」ではなく、利用目的に合わせた賢明な「戦略的撤退」です。

対策3:宅内のWi-Fi環境がボトルネックになっていないか確認する

「設定画面の5G電波品質は最高なのに、PCでの速度が遅い」という場合は、問題は5Gの受信ではなく、AirターミナルとPCの間の「Wi-Fi」にあります。近隣とのWi-Fiチャンネル干渉が起きていないか、壁などの障害物でWi-Fiが減衰していないかを確認しましょう。PCを有線LANで接続してみることで、問題がWi-Fiにあるのかを明確に切り分けることができます。

まとめ:5Gの「質」を見極め、最適な接続を選択する

SoftBank Airの5G接続が不安定な場合、その原因の多くは、単なる電波の「強さ」ではなく、目に見えない電波の「質」にあります。ランプが青色であることに一喜一憂するのではなく、設定画面の詳細な数値を読み解き、ご自身の環境における5Gの真の実力を見極めることが重要です。

そして、時には最新の5Gに固執するのではなく、盤石な安定性を持つ4Gを選択するという、戦略的な判断も必要になります。この記事を参考に、あなたの利用スタイルにとって、真に「快適」な接続環境をその手で構築してください。